RukeとLuNaYuの日記
I know the truth.
I know whole.
And I...know you.
平凡な大学生活の日記です。時折まじめな長文を書く病気になります。興味がなければ読み飛ばしてください。
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エルオーテーアール (2005/08/19(金) 19:24:50)
こういった、アイデンティティとか立場という物が視点の全てとなってしまって正常な議論が行われない、それどころか議論という行為自体が無効になってしまっている状況というのは、現代においてはそこここにある。人類の活動がこれほどまでに国際的レベルにまで及んでしまっては、それはある程度仕方のない事だろう。

しかしこうした問題が非常にうまく対処され、望ましい議論が成立した例として印象深かった例がある。映画The Lord of the Ringsの字幕改善運動だ。
LotRは公開された直後から、ネット上で戸田による字幕がおかしいとさかんに批判されるようになった。実際LotRの字幕は、単なる誤訳や技術上の問題以前に、映画の内容を的確に伝える事に興味はなくただ映画を見る人が映画の内容について疑問を持たないようにすれば十分だとでも言うような翻訳者の投げやりな態度がひしひしと感じられる物であった。典型的な例が、粗暴ではあるが高潔な騎士であるボロミアが指輪の魔力の虜となってしまったフロドの指輪を奪おうとするシーンで、フロドが``You are not yourself!''と言う所にあてられた「嘘つき!」という字幕である。

この問題は、直ちに、いつもの手続きに従って、単純な二項対立構造に落とされるかに見えた。特に、The Lord of the Ringsの同題の原作小説には、瀬田貞二による翻訳「指輪物語」があり、これが一定の大きな評価を受けていてファンが多いのだが同時にアクの強い翻訳である事が事態をややこしくした。

#ですます調。日本、あるいは中国の古典からの引用。固有名詞の日本的固有名詞による翻訳。特に最後の物については、トールキン自身がThe Lord of the Ringsの翻訳にあたっては「固有名詞は現地語へ翻訳せよ」と指示ているのだが、同時に、ある時期まで邦訳作業で標準的に行われていた固有名詞を日本人に馴染み易い固有名詞に置き換える慣習を継承したという事でもあり、最近の固有名詞をカタカナ(しかも出来る限り現地での発音に忠実であるようにされる)で表記する方法に馴染んでいれば相当な違和感を感じる事になる。

LotRの字幕への批判は、外野的な立場からはほとんどの場合「瀬田訳ファンのマニア達が瀬田訳を持ち上げるためにこき下ろしている」「瀬田訳ファンのマニア達が瀬田による特徴的な翻訳を踏襲する事を要求している」「瀬田訳ファンのマニア達が瀬田が採用した固有名詞の日本語への置き換えを採用する事を要求している」のいずれかとして捉えられる事になった。

あたり前の事だが、LotRの字幕を批判した人達は、LotR自体に深い思い入れがある人がほとんどで、だから瀬田訳ファン層とかなり一致する。そういうわけで、科学-トンデモ科学/疑似科学の問題で大槻教授が一人でトンデモ科学者10人分の害悪を振りまいているのと同様に、むしろ問題となったのは字幕を批判する側だった。特に、この問題に中心的な関わりを持たないような人々は、「瀬田訳を持ち上げるためにこき下ろす」「瀬田による特徴的な翻訳を踏襲する事を要求する」「瀬田が採用した固有名詞の日本語への置き換えを採用する事を要求する」というような事を実際に言い、瀬田訳ファンという自分のアイデンティティを固めるために単にLotRの字幕をダシにするという姿勢をとる人間が多かった。こうした人々は、「瀬田訳を持ち上げるためにこき下ろす」「瀬田による特徴的な翻訳を踏襲する事を要求する」「瀬田が採用した固有名詞の日本語への置き換えを採用する事を要求する」といった要求が実際には実現されるはずがない事を理解した上で単に自分のアイデンティティを主張するためにこうした発言をしているのであり、字幕の改善には初めから興味がないとう意味で戸田奈津子と同罪と言えるだろう。そうではない、LotRの字幕自体に問題意識をもっているような人々も、瀬田訳に対する愛着に根差すあまり深く考えない発言を行う事で「瀬田訳マニアが騒いでいる」という見方を助長した。

こうした姿勢は正に「モヒカン族」と呼ばれる物そのものであり、批判されるべきだろう。ただ、普通「モヒカン族」と言う場合、もっと独善的、暴力的に「正しい事」を押し付けようとする人々を指す。この意味で、評価すべきは、LotRの字幕を批判する運動において中心的な役割を果たした人々が、「モヒカン族」にならなかった点だ。

LOTR読み解き英語工房

字幕改善連絡室~LOTR字幕問題資料棚

彼らは、当初から、このLotRの字幕の質の低さに関する問題が、瀬田訳のファンのマニアックな拘りにすり返られる事に明確な懸念を持っていた。実際、一番初めに日本での配給会社が主にネット上で広がった字幕への批判を受けて行った字幕の「改善」は、主に固有名詞を瀬田訳の物に合わせるという物で、当然、LotRの字幕批判を「マニアが騒いでいる」と捉えていた人々は「一部のマニアの声に屈してチグハグな変更をするとは何事か」と怒るし、字幕批判運動をしている人々は「オタクどもの機嫌をとっておけば批判運動も鎮火するだろう、とは随分となめた態度だ」と怒り、誰も満足する事はなくますます状況が混迷する事となった。

しかしネット上で行われたLotR字幕改善運動の中心にいた人々は、常に一貫して、字幕が映画の内容を歪めて伝えている事が問題なのだ、という姿勢を貫き通した。

この目的、つまり、瀬田訳との相違が問題なのではない、という事を示すために標語的に、「誤訳」が問題なのだという風に言われた。

しかしそうすると今度は、「字幕の事も映画の事も良く分かっていない英語にだけ詳しい頭でっかちどもが戸田奈津子による意訳の揚げ足鳥をして、自分は英語ができるんだぞ、と自慢している」という風に捉える人々が出てきた。特に、瀬田訳自身、いくつか、明確で致命的な誤訳があるために、それを餌にしたいわゆる「釣り」をする人(繰り返すが、運動をしている人達は瀬田訳との相違を問題にしているのではないとは言っても、彼らの多くは瀬田訳に強い思い入れを持っている)、そして「釣られてしまう人」が出てきてしまったりもした。

それでも、ほとんどいつもほとんどの人が、字幕が映画の内容を歪めて伝えてしまっている事こそを問題視しているのであり、また、(身内に向けて)そこだけを問題視しなければいけない、という姿勢をとり続け、時折議論の雲行きが怪しくなっても多くの人々の懸命な努力によって、議論は速やかに正常化した。そうして、彼らはほとんどいつも、非常に抑えられた謙虚な``大人の''姿勢をとりながら、言うべき事、取るべき行動については見誤る事なく、そしてほとんど過不足なく行いつづけた。

そうして結局、この運動はLotRの字幕に対しても一定の成果を生んだし、もちろんLotRの字幕に関してはその結果は完璧に満足の行くものではなかったけれど、運動の全体が、確実に将来の映画と映画字幕に対してプラスの影響を及ぼすだろうと確信できる経過を辿ったという点で、手放しの称賛に値する運動であった(現在でもいくつかの映画について似たような運動が行われていて、もちろん問題点の洗い出しとかそういった草の根の運動が実際にどう反映されるかという問題は個別にあるものの、LotRの場合に必要だった余計な気苦労はもはやほとんど必要なくなっている)。

現代社会では、似非相対主義がはびこっていて、何でもかんでも異なる立場に基づく対立に落とし込み、お互いの立場を認め合うという妥協点を見出すか、完全に対話を拒否してお互いの立場を否定しあうか、といった状況が好まれる。現代社会において、アイデンティティの確立が行動原理の全てとなりがちで、それがしばしば、このような状況を心地よいものにしてしまう。

しかし、明確に目的意識の共有がなされれば、その下で、例え容易には同じ結論に達する事ができなくとも、必ず建設的な議論が可能なはずだ。そして、もし何ら結論を得る事ができなくとも、その議論の過程事態が大いに価値があるはずだ。

このLotRの字幕問題に関して言えば、共有される目的意識とは、より良い字幕、より良い映画を求めるという事だ。LotRの字幕がこれほどまでに問題視されたのは、それが間違っているとか、下手であるとか以前に、この字幕の作成者がこの目的意識を恐らくは共有していない人間である事が如実に感じられたためだ。そして、この字幕問題を混乱させる事に貢献した人々も、この目的意識を共有していない人々だっただろう。だが、映画の流通に関わる人々の中には、この目的意識を共有している人々が少なからずいるはずだし、楽観的に言えば、それが大部分のはずだ。そしてLotRの字幕が改善する事を真に願う人々の運動は、確かに、そこに届き、一定の成果に繋がった。

LotRの字幕問題の経緯は、人が真実に大してこれほどまでに誠実である事が可能であるという、一つの、素晴らしい例として記憶に値するだろう。
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